田中誠一の手には、70年の石工人生が宿っている。京都の石工の家に生まれ、14歳で父の工房に入り、最初の10年間は石の掃除と道具の手入れだけを任された。「石の声を聞けるようになるまでは、何もさせてもらえなかった」と田中は語る。石を叩く前に、石と対話する——それが京都石工の流儀である。
田中が最も得意とする技法は、野面積みである。山から切り出したままの自然石を、ほぼ加工せずに積み上げるこの技法は、一見して素朴に見えるが、実は最も高度な石工の技術を要する。石ひとつひとつの重心を見極め、隣接する石との接触点を最大化することで、モルタルを使わずとも崩れない「空積み」の石垣を作り上げる。
京都の古刹や名庭の多くに、田中の手による石組みが残っている。数百年後も残るものを作る——それが彼の信念であり、弟子たちに繰り返し語りかける言葉でもある。道具は鑿(のみ)一本。素材は石一個。その単純さの中に、無限の複雑さが隠されている。
日本で最も広く使われる庭石。花崗岩の一種で、耐久性と美しい光沢が特徴。白から黒まで様々な色がある。
温かみのある橙〜黄土色が特徴の砂岩は、和洋折衷の庭に欠かせない。時を経るほどに表情豊かに変化する。
軽く多孔質な溶岩石は、苔の付着に優れており、和の庭に独特の侘びた趣を与える。富士山麓産が最高品質。
長い年月を水に磨かれた川石は、滑らかな表面と有機的な形状が美しい。水の流れを感じさせる庭に最適。
自然石をほとんど加工せずに積み上げる最も原始的かつ難易度の高い技法。石それぞれの形の不規則さを活かしながら、重心の安定した積み方を見つけ出す。千年以上の歳月に耐える石垣の多くがこの技法で積まれている。石工の直感と経験が試される、職人技の真骨頂。
石を精密に切り出し、規則的なパターンで積み上げる技法。水平の目地を揃え、石の継ぎ目が重ならないよう配置することで、強度と美観を両立する。城郭や茶庭の石組みに多く見られ、設計図通りの精密な仕上がりを求められる、別の意味で高度な技法である。
延段とは、切石や自然石を組み合わせて作る平らな石畳の通路のこと。歩く人の歩幅・視線・速度を計算した上で石の配置を決め、歩くほどに庭の異なる表情が見えてくるよう意図的に設計される。日本庭園における「道」の哲学——どこを歩くかが、何を見るかを決める。